伝統文化というと、一般に変わらないもの、古くから伝えられてきたものを、そのまま変わらず引き継いだものと思われがちだと思う。

　でも、世の中に変わらないものなど存在するのだろうか。古代ギリシアの哲学者ヘラクレイトスも「万物は流転する」といって、物質の可変性を説いているし、我らが仏教だって諸行無常といって、すべてのものが「一つのところに留まらない」と説いて、世の中に変わらないものなど存在しはしないのだよ、と伝えている。

　そう、だから伝統文化というものも、決して変わらないものなどではなく、変化してきていると捉える方が無理がない。文化というものは、その時代時代に合わせて変化するものだけれど、カタチが全く違うものになってしまうワケではなく、前時代のものを引き継いだカタチに変化するのがフツウ。

　で大事なのは、変化するためには残っていることが第一前提で、無くなってしまっては変化もヘッタクレもない。

　本学（国際文化理容美容専門学校 渋谷校/国分寺校）は、特にこの残すということ、つまり次世代に引き継ぐということに注力しており、とりわけ伝統装束の着装方法については、考古学的見地から往時を再現する際に必要不可欠となることから、自ら探求し、また伝承のための教育（学生および一般技術者の講習など）に尽力している寸法。

　こうした一連の取り組みのなかで、昨年まで16年に亘って開催してきたのが『国際文化着付技術選手権』（途中に名称変更あり）という着付コンテスト。

　これは一般技術者と学生を対象としたコンテストで、技術の伝承という大前提を考慮すると継続性が問われるところでありますが、今般の世情、特に本年度における本大会の開催が新型コロナウイルス感染症拡大の危険性を孕んだものである、という判断のもと、まことに残念で申し訳なくありますが、本年度（令和2年）の開催を中止させていただくこととなった次第。

　世の中、状況は刻々と変化する。諸行無常の理（ことわり）なのであります。何卒ご理解のほどを。