橋本 結希さん　#代表 #訪問美容師 #美容師 #社会福祉士 #介護福祉士

美容師になってまだ2、3年目の頃、祖母がリウマチで動けなくなりました。当時はセイムレイヤーにカットするくらいの技術しかなかったけれど、家に行って髪を切ってあげたら、「家にいながらカットしてもらえるなんて幸せ、ありがとう」と、とても喜んでくれました。「私がしたかったのはこれだったんだ」と直感しました。それまでずっと、キラキラした美容の世界に居心地の悪さのようなものを感じていたのですが、自分が目指す美容の形がはっきり見えた瞬間でした。美容というより身だしなみ、お客さま一人ひとりの生活により近いところで美容師をしていきたい、「訪問美容師になる」と強く決意しました。周りを見れば、家族親戚だけでもリウマチの祖母をはじめ、病気や障害が理由で美容室に行けない人が4人もいました。それを考えたら日本全国で一体どれくらい『訪問美容』を必要としている人がいるんだろう？

『訪問美容』とは？

『訪問美容』とは、要介護や障害、怪我、乳幼児育児中などの理由で外出が困難な方を対象に、介護施設や病院、ご自宅に訪問して美容の業務を行なうものです。利用者様の中には寝たきりの方や、長時間同じ姿勢を保つことや真直ぐ座ることが困難な方、静止した状態で施術を受けるのが難しい方もいらっしゃいます。そのような方の髪を切るには、体の負担を軽くするためにも早くて正確な、ある意味、美容室で求められる以上の、もしくは性質の異なるカット技術が求められます。私も、より高い技術を身につけるため、サロンワークと併行してカットスクールに通いました。

介護の知識が必要。資格があればなお良い

初めての『訪問美容』は介護施設にて、利用者様は認知症の方でした。しかし会話にならず、カウンセリングができなかった。どんな髪型にしたいのか、どのくらい短く切っていいのか、応えが返ってこない。そもそも髪を切ること自体、分かっているのかいないのか…。担当の職員の方に聞いても分からず、ほとほと困りました。これは介護についての知識がないと『訪問美容』の仕事はできないなと思い、まずヘルパー2級（現・介護職員初任者研修課程修了資格）の資格を取りました。介護施設にも勤め、デイサービスや夜勤、訪問ヘルパーの実務をこなし、3年半かけて介護福祉士の資格も取りました。
『訪問美容』でご自宅に伺い髪を切らせていただいた時、ご家族から「そのままお風呂に入れられますか？」とお願いされ、私は介護の経験も資格もあったため、お風呂に入れて差し上げたことがあります。特にご高齢者は生活の中で入浴を拒否される方も多いのですが、カットを受け入れて下さり、私は拒否されなかったため、その流れで入浴介助もしたのです。見た目がキレイになることで意欲が湧き、お風呂にも入っていただけて、「生き返った。外に出たい」と言ってもらえました。『訪問美容』の力、素晴らしさを実感しました。また、寝たきりで意思疎通の取れない方に対しては、ご家族にヘアスタイルを確認して、ご本人はベットに寝たままの状態でカットすることもあります。余命宣告されていていて最後の準備をされる方や、亡くなられた方にカットすることもあります。お客さま一人ひとりの人生の重要な時に役を担わせていただき、かけがえのない経験をしています。

訪問美容師は、人と人を結ぶ「つなぎ役」

ヘアカットの効果はすごい。カットさせていただき、安心していただけたら、お風呂にも入ってくれて、ヘルパーさんも身体を洗える。衛生面も含めてキレイになれる。キレイになれば誰かに見られたい、外出したいといった意欲も生まれる。
髪の毛一つで見た目は全く変わります。そうなると周りの見方も、対応も違ってきます。『訪問美容』をスタートラインとした介護、福祉、医療との連携は、生命に直結する要素も多く、利用者様とご家族との繋がりも含めて、『訪問美容』は人と人を結ぶ「つなぎ役」としての役割を多く担っていると感じています。

高い意識を持った訪問美容師を日本全国に

『訪問美容』を始めて12年、現在は、『訪問美容』の講習やオンラインセミナーの講師もさせていただいています。オンラインセミナーは日本全国とつながるのに大変有効でした。
美容室に行きたくても行けない人が日本全国にたくさんいます。私一人では限界がありますが、私の経験や知識、ノウハウや思いを、できるだけ多くの人達に伝え、教えることで、高い意識と技術を持ち、利用者様やそのご家族を笑顔にできるプロの訪問美容師を全国に増やすことができる。そうなれば、日本中の要介護者や障害をお持ちの方が、ご自宅や施設で、安心安全に美容室と同じ施術をご満足いただける形で受けることができます。
『訪問美容』に直接関わる資格ではありませんが、講師をやるなら福祉を含めた全体像が見れた方がいいと思い、大学に通い社会福祉士の資格も取得しました。さらに高齢者だけでなく、障害者や発達障害児等にも対応できるようにすべく、精神保健福祉士の資格取得も目指しています。
訪問美容師として、最強に飛び抜けたいんです。
『訪問美容』への情熱を胸に、仕事と学びに励む毎日です。
（2024年3月5日取材/文・斎藤久子/写真・原田真理　※施術写真は橋本さん提供）

Q.訪問美容師になるために…取っておいた方がいい資格や技能は？

介護職員初任者研修課程修了資格（旧・ヘルパー2級）は持っていた方が良いです。
知っておいた方が良いことは、車イスの操作方法、介護とは何かということ。介助の仕方も学んでおいた方が安全です。
それと、短時間でサロンレベルのカットができる技術を身につけることが大切。まずはサロンでスタイリストになって、その先にあるのが「訪問美容師」だと思います。

Q.訪問美容で提供できる技術は？

結 Hair Nailでは、ヘアカット、 カラー、パーマネント、縮毛矯正、シャンプー＆ブロー、ヘアトリートメント、メイク、ネイルなど、サロンと同じ技術を提供しています。そのため、出張に使用する車は後部座席までいろいろな道具や材料でいっぱいです。

Q.訪問美容に必要な道具は？移動には車が必要ですか？

提供するメニューにより、必要な道具は異なります。ヘアメイクと同様に荷物は多いですが、ヘアカットやメイク、ネイルなら電車や自転車でも訪問可能です。
しかし、ヘアカラーやパーマを行なう場合はシャンプー設備が必要となるため、移動式シャンプー台、水を入れるポリタンクなど大きなものも運ばなくてはなりません。車があった方が移動が楽です。

出張ヘアカットの様子 ヘアカットに必要なシザーズやコームなどの道具はもちろんですが、移動式のシャンプー台、専用のイスなど、道具はすべて訪問美容師側が用意します。たたみ2帖分くらいのスペースがあれば施術可能で、部屋が汚れないように大きなシートを敷いて施術します。

チラシをつくり配布。「訪問美容」でできることを実際の施術写真やビフォー・アフター写真で料金メニューも含めて分かりやすく紹介。広く知ってもらうために、インスタなどのSNSも活用しています。

車後部の収納スペースにはパーマ液やカラー材が入っている。

シャンプーの時に水を入れるポリタンク

橋本 結希（はしもと ゆうき）

結 Hair Nail代表 。訪問美容師。千葉県出身。2006年3月渋谷校美容科卒業。2012年から介護事業所にて訪問美容師としての活動をはじめ、2014年4月28日に訪問美容室「結 Hair Nail」をオープン。社会福祉士、介護福祉士の資格も持ち、訪問美容師育成講座等の講師としても活躍。2024年現在、千葉県内約90件の介護事業所に携わり、個人宅約350件を訪問。精神保健福祉士の資格取得も目指す。
インスタ→＠yuu_hairnail_houmon_biyou

結 Hair Nail

結 Hair Nailホームページ
千葉県船橋市高野台3-6-7
TEL：070-6633-0391
MAIL：yuu.hair.nail@gmail.com
訪問美容育成コース オンラインセミナー
要介護、障害、怪我、妊娠中などの理由で外出が困難な方を対象とした「訪問美容」と実店舗にて、美容サービス（ヘアカット、シャンプー、カラー、パーマ、縮毛矯正、ヘアセット、メイク、ネイルケアなど）をトータルで提供。心（メンタルヘルス）と身体のケアに重きを置き、丁寧なカウンセリングと高いカット技術により、手ぐしブローだけでまとまる、長持ちする、やりたい髪型になれたと評判。サロン名の「結」には“人と人を結ぶ”という思いが込められている。